"なんだよ!結論なしかよ!"
なんて声をがどこからともなく......ではなく、確実に色んな人から届くわ届くわ。なんでSurface Pro 6は入ってないんだ! とか、前回の記事掲載後に諸々のご指摘ありましたので、一応、結論を申し上げますと、MacBook Proの13.3インチモデル(TouchBarあり)を16GBメモリ/512GBSSDで発注いたしました。
MacBook Airのレビューを担当したとはいえ、ベースモデルの128GB SSD版しか試用していないので、たぶん256GBや512GB版はSSDが爆速かも? (MacBook Proと同じならですが)とか、MacBook Airでもメモリ増やしておけば当面困らないんじゃない? そもそもTouchBar、おまえ使ってないだろ? とか、色々な考えが頭の中を駆け巡りましたし、iPad Pro+Mac miniの組み合わせてみるのも面白そうだなとかも考えました。
しかし、結局は120gぐらいの差なら、MacBook Proを修理しながらでも長いこと使おうってことで、Apple Care込みで購入することにしたわけです。
......と、ワタクシごとではそういう結論になったわけですが、個人的にはMacBook Airという製品をどう仕上げるのか、その"組み立て方"のようなものを見て、面白いなぁと言いますか、もしかしてこれってノートPCのトレンドを変えるかも? と思うところもあったので、今回はそんな話をツラツラと。
先に結論を書いておきますが、今回のMacBook Air。初代モデルが"薄型ノートパソコン"というトレンドを生み出したのと同じように、新しいトレンドを生み出す出発点になりそうな予感です。
Appleは使っている部品の型番を細かくスペック表に書かないため、当初はどんな素性のマイクロプロセッサなのかさっぱりわかりませんでした。発表後、しばらくするとインテルがIntel ARKという製品データベースにMacBook Airに搭載されているプロセッサと同じスペックの製品を登録。そこではじめて搭載されている部品の型名が第8世代「Intel Core i5 8210Y」で、TDP7ワットのかな〜り省電力なプロセッサであることがわかったのです。
このことには、実はかなり大きくて深い意味があると思うのです。
ご存知のように、Appleは一度、機構設計の大枠を決めると、滅多にそれを変更しません。MacBook Airに関して言うと、前回の機構設計は8年間も使い続けられました。これは極端な例でしょうけれど、MacBook Proを見てみても、僕が購入したRetina Displayモデルが2012年6月の発売。この機構設計が変更されたのは2016年10月末のことで、約4年4ヶ月もの間、同じ設計を踏襲していたことになります。
そう考えると今回のMacBook Airにおいても、少なくとも4年、おそらくはもっと長い間、同じ設計を踏襲するんじゃないでしょうか。
もちろん多少の変更が施されることはあるでしょう。しかし、いきなり2倍の電力枠になる、なんてことは考えにくいです。つまり、AppleはMacBook Airという製品の枠組み、用途において、今後、5年ぐらいの間は7ワットでパソコンとしての商品価値を出していけるぞ〜、と考えていることになります。
ところでほぼ同時期、重さ700gを切った13インチのノートPCが富士通から発表されました。LIFEBOOK UH-X/C3というモデルはバッテリー動作時間の目安が11.5時間ですし、薄型13インチクラスということでは、MacBook Airと競合する製品です。
重さはともかくとして、ほぼ同じぐらいのボリューム感の製品ですが、同じ第8世代Intel CoreプロセッサでもこちらはTDP15ワットで4コア仕様。MacBook Airより価格が少し高いですが、その分、パフォーマンスは圧勝。重さは700g以下なのに、1.25kgで画面サイズもほぼ同じなMacBook Airとほぼ同じバッテリー動作時間。スペックに関しては、MacBook Airよりもずっと上であることは間違いありません。
そもそも、CPUを供給しているインテルは、パソコンの使用目的に応じた設計枠をいくつか用意しています。TDP15ワットは薄型ノートパソコンに向けたもの。で、このTDP15ワットの枠にはクアッドコアのプロセッサが投入されているわけで、LIFEBOOK UH-X/C3と同様の製品は世の中にいくつもあります。
そしておそらくですが、MacBook Airの中に同様のクアッドコアプロセッサを内蔵させることだってできたのでしょう。Whiskeyを飲ませろ! と言われたなら、いつでも提供する用意がインテルにはあったと思います。
しかし、蓋を開けてみると実際に搭載されたのはTDP7ワットのプロセッサ。ですが、しばらくMacBook Airを使って思うのは、あえてAppleは15ワットのプロセッサを使わなかったのでは? ということです。
Mac、Windowsを問わずパソコンはどれも同じ、そしてスマートフォンも例外ではないのですが、入手してセットアップを行ってからしばらくの間はデータの同期や検索用インデックスの作成、それに写真の分析と分類など、とても多くのプログラムがバックグランドで動いています。が、数日経過すると落ち着いてくるものです。
使い始めて5日目。
MacBook Airは化けました。
とにかく快適なのです。高速という意味ではありません。この製品よりも処理能力が高いパソコンはたくさんあります。消費電力のことを考えなければ、いくらでもコア数が多いプロセッサはあります。しかし、MacBook Airの快適さは「心地よさ」でした。
一連のバックグラウンド処理が終わると、冷却ファンがほとんど動く様子もない、本体は発熱せずに手元はもちろん、膝の上でも熱くない(いや、熱いのって割と普通ですからね)、そして吸気口がわからないような全体を切り欠きや孔のない筐体。
こうした快適性は、絶対的なプロセッサの動作クロック周波数や搭載コア数だけで推し量れるものではありません。もちろん、コンピュータとして快適に動作してくれることが最低条件としてありますが、ものすごく高性能かつ高速で動作するコンピュータだからといって、それがノートパソコンとして最高というわけではないということですね。
そんなの当たり前? いやいや、なかなか"パソコン"という枠組みの中では、そうした境地に至れないものです。
もっとも、こんなことを書いているワタクシは、MacBook AirではなくMacBook Proを選んだのですから、当然ながら......。
「じゃあ、お前はいったい何に対してMacBook Proの差額分を支払ったんだよ」
そういう、至極まっとうな疑問が沸いてくるでしょう。まぁ、それはレガシーなパソコン世代親父の精神安定剤、安心料、掛け捨て保険みたいなもんでしょうか。
同じように精神安定剤として、なるべく高性能なプロセッサを搭載したパソコン買ってる人はほかにもいるはずです。
でも、その精神安定剤のような、このカテゴリならこの分類のプロセッサといったルールは誰が決めているんでしょいうか? ここはひとつ、歴史的な経緯を検証してみましょう。
インテルの部品番号のいちばん後ろにあるアルファベットは、製品の用途を示します。そして、その用途ごとに想定通りの性能を発揮させた場合、どのぐらいの消費電力(発熱)になるのか、その目安となる枠としてTDPという数字を定義しています。前述の1ワットとか、15ワットなどの数字ですね。この数字が大きいほど、数字に比例して発熱が増えると思えば間違いありません。
昔は動作電圧を抑えることが省電力化の鍵だったため、低電圧版(LV)、超低電圧版(ULV)なんて呼び名がありましたが、その後、プロセッサのパッケージに色んなものが詰め込まれるようになり、電圧だけじゃ目安にならないということもありで、インテルはTDPという枠で部品の分類をするようになりました。
というわけで、末尾Yは「極省電力」なんていわれるカテゴリでTDPが7ワット以下、でも実際には4.5ワットとか5ワットとかが好んで選ばれ、タブレット型コンピュータや冷却ファンなしのコンピュータ用に使われてきました。
7ワットは過去にあまり採用例を聞いたことがありませんけれど、その上の15ワットは13インチクラスの薄型ノートパソコンを想定した数字です。インテルはUltrabookという薄型ノートパソコンのカテゴリを定義して、そういった製品を開発するのに最適なマイクロプロセッサの枠組みを設定しました。これは2010年に登場した2世代目のMacBook Airの人気に対して、2011年にインテルが定義したものです。
現在、表立ったマーケティングはあまりされていませんが、15ワットのTDP枠は(それ以前からも存在しましたが)このあと、薄型の13インチクラスのノートパソコン向け定番マイクロプロセッサとして定着していきます。
しかし、Appleはその半分以下となる7ワットのTDPという枠組みでMacBook Airを作り、今後(特に明言はしていませんが)数年にわたってその枠で製品を作り続けていくわけです。
今回のMacBook Airに感じた、絶対パフォーマンスとは別軸とも言える快適性は、薄型ノートパソコンに対するAppleの見識、あるいはある種の提案のようなものだと思います。
▲この小さな隙間で吸排気。左から吸って右から吐き出す仕組み
これがすんなりと受け入れられ、彼らが開発時にこだわっただろう、ファンがほとんど動かない静かで穏やかな使用感や、吸排気口が見えずファンレス設計にも見えてしまう外観の美しさなどが、"ごく当たり前のこと"としてリファレンスになれば、世の中は動き始めるかもしれません。
だって、7ワットという数字だって、15ワットだって、元はインテルが当時の自分たちの都合で決めた数字でしかないんですよ。時代が変化すれば......すなわち、より省電力なプロセッサが主流になってくれば、このトレンドは変化します。
MacBook Proを選んだ理由を"精神安定剤のようなものだ"と書きましたが、それは長く安定して使っていく上で"パフォーマンスに余裕がある方がいい(だろう)"と考えたからです。
パソコンを買うときは、そのジャンルの範囲内で盛れるだけ盛れ! というのが、僕らパソコン世代なオッサンたちの常識でありますが、この考えはクロック周波数だけでパソコンの性能が決まっていた古い時代の考え方です。
僕らのように文字を書いて、写真を扱って、たまに動画も扱うけどたいしたことはやらず、それなりに年々、動きは重くなっていくけれど、まぁ、せいぜい"最近のWebってリッチなになって、ブラウザがメモリ食いまくりだよ"と不満を言うぐらいの人間は、メモリはたくさん載せておきたいものですが、プロセッサに求めるのは瞬発力。
ゲーミングPCや開発用、クリエイター用のパソコンや各種サーバなんかは、マルチコアのパフォーマンスやGPU性能が求められますが、僕らにとっては無用の長物。GPUという高性能なものがあればクリエイター向けツールも高速に動きますが、単純にグラフィクスの描画速度という意味では、マルチモニターで4Kディスプレイをつないでいたとしても、今のMacBook Airに不足はありません。
▲本稿の趣旨とは違いますが、実はMacBook ProよりもMacBook Airのほうがトラックパッドは小さい。でもTouchBarなしを好ましいと思っている人も多いのでは?
現実には、ギガ盛りしたからといってそれが役立つことことは希でしょう。
SSDだけは、コストの面もあってテラ盛りしてませんが(実はRetina Displayを採用した最初のMacBook Proの時にこの容量を選んでから増えていません)、それはmacOSが賢くiCloud Driveへとデータを(自動的に)逃がしてくれるからで、ここだけは少しばかりテラ盛り脳ではなくなってきています。
比べるのもどうかとは思いますが、昔話をするとクルマだってエンジンパワーはどんなもんよ? という部分が、選ぶうえでのもっとも重要な要素だった時代がありましたけれど、今じゃ充分なパワーがあればいいんでないの? ぐらいにしか思っていないでしょう。もちろん、ドライバビリティなどフィーリングは大切だけれど、絶対性能を求めるのはごく一部の人たちだけです。
パソコンもそういう時代だよね~ってってことは、わかっちゃいるけど、やめられない。
ユーザー心理としては、永く使いたいというところなんですが、メーカー側にも同じような心理があるのだと思います。
一社だけが「俺たち、インテルの設計ガイドラインやプロセッサの枠組みとか、そういうの関係ないからさ。TDP 15ワット? それって本当に今の時代に適しているの? 冷却周りの設計や電力制御のドライバと込みで設計するから、余計なお世話」といって、欲しいスペックのマイクロプロセッサを供給するようにネゴしたとしても、(インテルが作ってくれるかどうかはともかく)「どうせ遅せーんじゃねーの?」と無視されるだけかもしれません。
しかしこのパーソナルコンピュータと一週間共に過ごしてみて、パソコン普及期に生まれたさまざまな常識をリセットすべきだと感じたのです。
▲ファンレスに見えますよね? ほとんどMacBookのような外観でありながら、瞬発力は悪くありません
総合的なパワーは必要充分なレベルで"More Power"を求める向きには物足りないけれど、普段使いの快適性をもたらす瞬発力(内蔵SSDもなかなかに読み出しが高速です)、涼しさ、ガラスとアルミで包まれ開口部が極めて少ない(つまり耐久性の高い)外装。それらをバランス良くまとめようと注意深く部品選定をした結果、Appleは他メーカーが使っていないTDP 7ワットの部品を選んだということなのです。
Appleがこうした選択を行えるのは、"macOSが動くコンピュータ"という選択肢の中においては、Macを選ぶしかないからということもあるでしょう。どういうラインナップにするのかを、Appleは"他社がどうラインナップを作っているか"なんてことは気にせずに、ユーザー体験だけを考えて商品コンセプトに合う選択ができるからです。
MacBook Airはこの一世代で終わるわけではありません。
どうやら"Core i7のTDP 7ワット版もあるようだ"なんて記事もありますが(クロック周波数が200MHz高い選別品のようですね)、このあと数年後の近い将来を見据えたうえで、"文房具としての薄型パソコン"向けにバランスポイントとして、この位置付けが定着していくのかもしれません。
願わくば、部品メーカーが提案する枠組みとは別に、商品を企画する担当者とエンジニアが膝を詰め、5年以上は通用する(機構設計を変更しなくていい)プラットフォームを。VAIO、LaVie、LIFEBOOK、ThinkPad(最後の3つは同じ資本ですが......)あたりから、独自のバランス感覚で作ったモバイルパーソナルコンピュータが生まれることを期待したいですね。
なんて声をがどこからともなく......ではなく、確実に色んな人から届くわ届くわ。なんでSurface Pro 6は入ってないんだ! とか、前回の記事掲載後に諸々のご指摘ありましたので、一応、結論を申し上げますと、MacBook Proの13.3インチモデル(TouchBarあり)を16GBメモリ/512GBSSDで発注いたしました。
MacBook Airのレビューを担当したとはいえ、ベースモデルの128GB SSD版しか試用していないので、たぶん256GBや512GB版はSSDが爆速かも? (MacBook Proと同じならですが)とか、MacBook Airでもメモリ増やしておけば当面困らないんじゃない? そもそもTouchBar、おまえ使ってないだろ? とか、色々な考えが頭の中を駆け巡りましたし、iPad Pro+Mac miniの組み合わせてみるのも面白そうだなとかも考えました。
しかし、結局は120gぐらいの差なら、MacBook Proを修理しながらでも長いこと使おうってことで、Apple Care込みで購入することにしたわけです。
......と、ワタクシごとではそういう結論になったわけですが、個人的にはMacBook Airという製品をどう仕上げるのか、その"組み立て方"のようなものを見て、面白いなぁと言いますか、もしかしてこれってノートPCのトレンドを変えるかも? と思うところもあったので、今回はそんな話をツラツラと。
先に結論を書いておきますが、今回のMacBook Air。初代モデルが"薄型ノートパソコン"というトレンドを生み出したのと同じように、新しいトレンドを生み出す出発点になりそうな予感です。
MacBook AirがTDP7ワットで行くと決めた意味
でもってMacBook Airに搭載されたマイクロプロセッサですが、コイツが全然、遅く感じないわけですよ。まぁ、今のうちだけかもしれないですが、かれこれ25年もパソコンの評価を仕事でやってきましたからね。Appleは使っている部品の型番を細かくスペック表に書かないため、当初はどんな素性のマイクロプロセッサなのかさっぱりわかりませんでした。発表後、しばらくするとインテルがIntel ARKという製品データベースにMacBook Airに搭載されているプロセッサと同じスペックの製品を登録。そこではじめて搭載されている部品の型名が第8世代「Intel Core i5 8210Y」で、TDP7ワットのかな〜り省電力なプロセッサであることがわかったのです。
このことには、実はかなり大きくて深い意味があると思うのです。
ご存知のように、Appleは一度、機構設計の大枠を決めると、滅多にそれを変更しません。MacBook Airに関して言うと、前回の機構設計は8年間も使い続けられました。これは極端な例でしょうけれど、MacBook Proを見てみても、僕が購入したRetina Displayモデルが2012年6月の発売。この機構設計が変更されたのは2016年10月末のことで、約4年4ヶ月もの間、同じ設計を踏襲していたことになります。
そう考えると今回のMacBook Airにおいても、少なくとも4年、おそらくはもっと長い間、同じ設計を踏襲するんじゃないでしょうか。
もちろん多少の変更が施されることはあるでしょう。しかし、いきなり2倍の電力枠になる、なんてことは考えにくいです。つまり、AppleはMacBook Airという製品の枠組み、用途において、今後、5年ぐらいの間は7ワットでパソコンとしての商品価値を出していけるぞ〜、と考えていることになります。
なんで"Whiskey"飲ませないんだよ!(プンプン!)
▲富士通から発表された重さ698gのLIFEBOOK UH-X/C3ところでほぼ同時期、重さ700gを切った13インチのノートPCが富士通から発表されました。LIFEBOOK UH-X/C3というモデルはバッテリー動作時間の目安が11.5時間ですし、薄型13インチクラスということでは、MacBook Airと競合する製品です。
重さはともかくとして、ほぼ同じぐらいのボリューム感の製品ですが、同じ第8世代Intel CoreプロセッサでもこちらはTDP15ワットで4コア仕様。MacBook Airより価格が少し高いですが、その分、パフォーマンスは圧勝。重さは700g以下なのに、1.25kgで画面サイズもほぼ同じなMacBook Airとほぼ同じバッテリー動作時間。スペックに関しては、MacBook Airよりもずっと上であることは間違いありません。
そもそも、CPUを供給しているインテルは、パソコンの使用目的に応じた設計枠をいくつか用意しています。TDP15ワットは薄型ノートパソコンに向けたもの。で、このTDP15ワットの枠にはクアッドコアのプロセッサが投入されているわけで、LIFEBOOK UH-X/C3と同様の製品は世の中にいくつもあります。
そしておそらくですが、MacBook Airの中に同様のクアッドコアプロセッサを内蔵させることだってできたのでしょう。Whiskeyを飲ませろ! と言われたなら、いつでも提供する用意がインテルにはあったと思います。
しかし、蓋を開けてみると実際に搭載されたのはTDP7ワットのプロセッサ。ですが、しばらくMacBook Airを使って思うのは、あえてAppleは15ワットのプロセッサを使わなかったのでは? ということです。
Mac、Windowsを問わずパソコンはどれも同じ、そしてスマートフォンも例外ではないのですが、入手してセットアップを行ってからしばらくの間はデータの同期や検索用インデックスの作成、それに写真の分析と分類など、とても多くのプログラムがバックグランドで動いています。が、数日経過すると落ち着いてくるものです。
使い始めて5日目。
MacBook Airは化けました。
とにかく快適なのです。高速という意味ではありません。この製品よりも処理能力が高いパソコンはたくさんあります。消費電力のことを考えなければ、いくらでもコア数が多いプロセッサはあります。しかし、MacBook Airの快適さは「心地よさ」でした。
一連のバックグラウンド処理が終わると、冷却ファンがほとんど動く様子もない、本体は発熱せずに手元はもちろん、膝の上でも熱くない(いや、熱いのって割と普通ですからね)、そして吸気口がわからないような全体を切り欠きや孔のない筐体。
こうした快適性は、絶対的なプロセッサの動作クロック周波数や搭載コア数だけで推し量れるものではありません。もちろん、コンピュータとして快適に動作してくれることが最低条件としてありますが、ものすごく高性能かつ高速で動作するコンピュータだからといって、それがノートパソコンとして最高というわけではないということですね。
そんなの当たり前? いやいや、なかなか"パソコン"という枠組みの中では、そうした境地に至れないものです。
そのルールは誰が決めるの?
▲TouchBarありの13インチMacBook Proもっとも、こんなことを書いているワタクシは、MacBook AirではなくMacBook Proを選んだのですから、当然ながら......。
「じゃあ、お前はいったい何に対してMacBook Proの差額分を支払ったんだよ」
そういう、至極まっとうな疑問が沸いてくるでしょう。まぁ、それはレガシーなパソコン世代親父の精神安定剤、安心料、掛け捨て保険みたいなもんでしょうか。
同じように精神安定剤として、なるべく高性能なプロセッサを搭載したパソコン買ってる人はほかにもいるはずです。
でも、その精神安定剤のような、このカテゴリならこの分類のプロセッサといったルールは誰が決めているんでしょいうか? ここはひとつ、歴史的な経緯を検証してみましょう。
インテルの部品番号のいちばん後ろにあるアルファベットは、製品の用途を示します。そして、その用途ごとに想定通りの性能を発揮させた場合、どのぐらいの消費電力(発熱)になるのか、その目安となる枠としてTDPという数字を定義しています。前述の1ワットとか、15ワットなどの数字ですね。この数字が大きいほど、数字に比例して発熱が増えると思えば間違いありません。
昔は動作電圧を抑えることが省電力化の鍵だったため、低電圧版(LV)、超低電圧版(ULV)なんて呼び名がありましたが、その後、プロセッサのパッケージに色んなものが詰め込まれるようになり、電圧だけじゃ目安にならないということもありで、インテルはTDPという枠で部品の分類をするようになりました。
というわけで、末尾Yは「極省電力」なんていわれるカテゴリでTDPが7ワット以下、でも実際には4.5ワットとか5ワットとかが好んで選ばれ、タブレット型コンピュータや冷却ファンなしのコンピュータ用に使われてきました。
7ワットは過去にあまり採用例を聞いたことがありませんけれど、その上の15ワットは13インチクラスの薄型ノートパソコンを想定した数字です。インテルはUltrabookという薄型ノートパソコンのカテゴリを定義して、そういった製品を開発するのに最適なマイクロプロセッサの枠組みを設定しました。これは2010年に登場した2世代目のMacBook Airの人気に対して、2011年にインテルが定義したものです。
現在、表立ったマーケティングはあまりされていませんが、15ワットのTDP枠は(それ以前からも存在しましたが)このあと、薄型の13インチクラスのノートパソコン向け定番マイクロプロセッサとして定着していきます。
ギガ盛りを求めるのは、もはやレガシー脳なのか
僕が新しいMacBook AirにWhiskey Lakeアーキテクチャの採用を期待したのは、Whiskey LakeがTDP 15ワットの枠組みで作られた、最新のインテルプラットフォームだからでした。しかし、Appleはその半分以下となる7ワットのTDPという枠組みでMacBook Airを作り、今後(特に明言はしていませんが)数年にわたってその枠で製品を作り続けていくわけです。
今回のMacBook Airに感じた、絶対パフォーマンスとは別軸とも言える快適性は、薄型ノートパソコンに対するAppleの見識、あるいはある種の提案のようなものだと思います。
▲この小さな隙間で吸排気。左から吸って右から吐き出す仕組み
これがすんなりと受け入れられ、彼らが開発時にこだわっただろう、ファンがほとんど動かない静かで穏やかな使用感や、吸排気口が見えずファンレス設計にも見えてしまう外観の美しさなどが、"ごく当たり前のこと"としてリファレンスになれば、世の中は動き始めるかもしれません。
だって、7ワットという数字だって、15ワットだって、元はインテルが当時の自分たちの都合で決めた数字でしかないんですよ。時代が変化すれば......すなわち、より省電力なプロセッサが主流になってくれば、このトレンドは変化します。
MacBook Proを選んだ理由を"精神安定剤のようなものだ"と書きましたが、それは長く安定して使っていく上で"パフォーマンスに余裕がある方がいい(だろう)"と考えたからです。
パソコンを買うときは、そのジャンルの範囲内で盛れるだけ盛れ! というのが、僕らパソコン世代なオッサンたちの常識でありますが、この考えはクロック周波数だけでパソコンの性能が決まっていた古い時代の考え方です。
僕らのように文字を書いて、写真を扱って、たまに動画も扱うけどたいしたことはやらず、それなりに年々、動きは重くなっていくけれど、まぁ、せいぜい"最近のWebってリッチなになって、ブラウザがメモリ食いまくりだよ"と不満を言うぐらいの人間は、メモリはたくさん載せておきたいものですが、プロセッサに求めるのは瞬発力。
ゲーミングPCや開発用、クリエイター用のパソコンや各種サーバなんかは、マルチコアのパフォーマンスやGPU性能が求められますが、僕らにとっては無用の長物。GPUという高性能なものがあればクリエイター向けツールも高速に動きますが、単純にグラフィクスの描画速度という意味では、マルチモニターで4Kディスプレイをつないでいたとしても、今のMacBook Airに不足はありません。
▲本稿の趣旨とは違いますが、実はMacBook ProよりもMacBook Airのほうがトラックパッドは小さい。でもTouchBarなしを好ましいと思っている人も多いのでは?
現実には、ギガ盛りしたからといってそれが役立つことことは希でしょう。
SSDだけは、コストの面もあってテラ盛りしてませんが(実はRetina Displayを採用した最初のMacBook Proの時にこの容量を選んでから増えていません)、それはmacOSが賢くiCloud Driveへとデータを(自動的に)逃がしてくれるからで、ここだけは少しばかりテラ盛り脳ではなくなってきています。
比べるのもどうかとは思いますが、昔話をするとクルマだってエンジンパワーはどんなもんよ? という部分が、選ぶうえでのもっとも重要な要素だった時代がありましたけれど、今じゃ充分なパワーがあればいいんでないの? ぐらいにしか思っていないでしょう。もちろん、ドライバビリティなどフィーリングは大切だけれど、絶対性能を求めるのはごく一部の人たちだけです。
パソコンもそういう時代だよね~ってってことは、わかっちゃいるけど、やめられない。
ユーザー心理としては、永く使いたいというところなんですが、メーカー側にも同じような心理があるのだと思います。
一社だけが「俺たち、インテルの設計ガイドラインやプロセッサの枠組みとか、そういうの関係ないからさ。TDP 15ワット? それって本当に今の時代に適しているの? 冷却周りの設計や電力制御のドライバと込みで設計するから、余計なお世話」といって、欲しいスペックのマイクロプロセッサを供給するようにネゴしたとしても、(インテルが作ってくれるかどうかはともかく)「どうせ遅せーんじゃねーの?」と無視されるだけかもしれません。
"文房具としてのパソコン"と"クリエイエティブツールとしてのパソコン"
今更ですが、このコラムはMacBook Airを買えという論旨でも、激賞して購買欲を煽ろうというものでもありません。しかしこのパーソナルコンピュータと一週間共に過ごしてみて、パソコン普及期に生まれたさまざまな常識をリセットすべきだと感じたのです。
▲ファンレスに見えますよね? ほとんどMacBookのような外観でありながら、瞬発力は悪くありません
総合的なパワーは必要充分なレベルで"More Power"を求める向きには物足りないけれど、普段使いの快適性をもたらす瞬発力(内蔵SSDもなかなかに読み出しが高速です)、涼しさ、ガラスとアルミで包まれ開口部が極めて少ない(つまり耐久性の高い)外装。それらをバランス良くまとめようと注意深く部品選定をした結果、Appleは他メーカーが使っていないTDP 7ワットの部品を選んだということなのです。
Appleがこうした選択を行えるのは、"macOSが動くコンピュータ"という選択肢の中においては、Macを選ぶしかないからということもあるでしょう。どういうラインナップにするのかを、Appleは"他社がどうラインナップを作っているか"なんてことは気にせずに、ユーザー体験だけを考えて商品コンセプトに合う選択ができるからです。
MacBook Airはこの一世代で終わるわけではありません。
どうやら"Core i7のTDP 7ワット版もあるようだ"なんて記事もありますが(クロック周波数が200MHz高い選別品のようですね)、このあと数年後の近い将来を見据えたうえで、"文房具としての薄型パソコン"向けにバランスポイントとして、この位置付けが定着していくのかもしれません。
願わくば、部品メーカーが提案する枠組みとは別に、商品を企画する担当者とエンジニアが膝を詰め、5年以上は通用する(機構設計を変更しなくていい)プラットフォームを。VAIO、LaVie、LIFEBOOK、ThinkPad(最後の3つは同じ資本ですが......)あたりから、独自のバランス感覚で作ったモバイルパーソナルコンピュータが生まれることを期待したいですね。
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